風鈴が、実体のない風に音を付けることができるように、
現を泳ぐ実体のない金魚に色を差すことができる作家。
深堀隆介(ふかほり りゅうすけ)氏。


彼の描き出す金魚たちは、儚く、時に喜びに溢れ、時に生々しく揺らぎ、狂気を帯びながら、常に美しい。

PREHITSTORY

現在、横浜市のオープンスペース&カフェ『nitehi works(ニテヒワークス)』さんで行われている、深堀隆介氏による『非なる緋』展。昨今のご活躍目まぐるしく、今や渦中の人となりつつある同氏の個展に伺い、色々とお話を聞いてきました。


深堀隆介展示会
『非なる緋』


日時:4月2日(土)〜4月25日(月) (12日、19日は休館日) 時間:17:00〜21:30 (土日は15時〜入場無料、1オーダー制)

金魚をテーマに多彩な表現に挑戦する深堀隆介氏の樹脂を使った代表作ほか、屏風絵、立体など、数々の作品が元金融機関のビルを再生したオープンスペース各所に展示されます。“まるで泳いでいるかのような美しい金魚達” ぜひ実際に「見て」「感じて」ください 。

深堀隆介氏

INTERVIEW



史(フヒト) - 以前から深堀さんの作品はWebや雑誌で拝見し、『金魚酒(※01)』は現物を目にしたことがあるのですが、絵を拝見したのは実は初めてで…迫力ありますね。
深堀隆介氏(以下・名、敬称略) - ありがとうございます。どの子が一番お好きですか。
史 - 『韓雪(からゆき)(※02)』ですかね。今回展示されている中で、この子だけ異質な気がします。俯瞰されることよりも、触れられることを望んでいるというか。近くで見ると分かるんですが、撫でるのに絶妙のサイズなんですよね。寝転がった大型犬のような… あと、抱き締めるにも絶妙のサイズ。笑

01 『金魚酒』

桶に樹脂を流し込み、直接そこへアクリル絵具で金魚の絵を描いていく。羽田空港ディスカバリーミュージアムでも取り扱われている、高い人気を誇る深堀隆介氏の代表作。

韓雪(からゆき)

02 『韓雪(からゆき)』

水の中で大きく翻り、腹部を顕にした彼女の瞳には、恍惚としたものが宿っているように見える。 身近付いてみると、なぜか抱きしめたくなる衝動に駆られた。

深堀 - そうですね、僕も『韓雪(からゆき)』は今回の展示の中でも溺愛しています。

別の展示会で、暖炉の近くに置かれていた時は熱いんじゃないかと心配したくらいですから。笑 あとこの子、男性から妙に人気があるんですよ。

"綺麗な尾でしょ。
僕は、頭の中で何度この尾を撫でたことか・・・。"

- 深堀隆介ブログ 『金色ノ鮒』 2010/07/25 より

史 - それはどこかエロスを感じるからでしょうね。 でも深堀作品はこういう描写、少なくないですよね。今回展示されている『愛四季(いとしき)※03』はまだ穏やかなほうだと思いますが、今回は展示されていませんが『麗微動(リビドー)』という作品では、かなり深いところまで「性」を描かれていたと思いますが。
深堀 - そもそも僕が描きたいのは「金魚」そのものではないんですよ。金魚の向こうに、人の「命」を描きたい。すると「生」のリアリティーを避けて通れないんですよ。

"表現者として、やはり表面的な綺麗さだけを追い求めることは、絶対に嫌なんです。(デザインワークの場合は表面的でいい)

裏側にある生(なま)なもの。そこに真実があると思っています。僕にとって、アートとはそこを汲み取っている作品なのです。"

- 深堀隆介ブログ 『金色ノ鮒』 2010/01/30 より

愛四季(いとしき)

史 - 生命のリアリティー…なるほど。ということはあっちに吊るされている大きな骨、あれの意味するところは「死」ですか?
深堀 - ああ、あの子はね、「天樫ノ緋魚(あまかしのひのな)※04」と言って、僕の中では死んでないんですよ。森を歩いているときに、枝のうねりが泳いでる魚の骨に見えたことがきっかけで生まれました。死を象徴しての「骨」ではなく、泳いでる「骨」なんです。

03 『愛四季(いとしき)』

キャンバスの隅に追いやられた雌と、追い掛ける雄の姿。単に「寄り添うメオト」と言うにはどこか違和感を覚えないだろうか。

彼らの恋の季節は春。壮絶なるリビドー(性欲)を越え、雄と雌の描く螺旋は、新しい生命へと繋がれていく。

04 『天樫ノ緋魚(あまかしのひのな)』

別名「落葉金魚(らくようきんぎょ)」。

血肉を脱ぎ捨てた4mの金魚は、住処からも重力からも解き放たれ、自由を謳歌しているように見える。

天樫ノ緋魚(あまかしのひのな)

大緋(おおあけ)

『大緋(おおあけ)』

2010年8月末「保土ヶ谷キャンドルナイト」でのライブペインティングで生まれた金魚。

大筆(ほうき)を薙刀のように振り回し、炎の中で大作を一気に描き切るパフォーマンスには、目撃した全員が度肝を抜かれた。(僕もそのひとり)

今回の個展のタイトルである「非なる緋」には、この子の名前が含まれている。


韓雪(からゆき)

僕は深堀氏ほど、「嬉しそうに」作品の話をする作家を知らない。作家は普通、凝らされた技工や作品を描いた理由の話をするものだと思っていたが、彼の語り口は「こんな子(金魚)に出会えて、自分は本当に運が良い」といった具合。

屋台で立派な金魚を偶然手に入れ、興奮する少年の話を聞くようだった。

"僕は、制作する上で、どんなにつらくても、どんなに情けない思いをしても、根底に、「楽しい」があります。"

- 深堀隆介ブログ 『金色ノ鮒』 2010/10/01 より




史 - 深堀さんはたまに変わったものを利用して作品を創りますよね。潰れた缶をキャンバスにした、『asahi(アサヒ)』とか『cafe aulait(カフェ・オレ)』(※05)とか。

あれ僕すごく好きです。なんかこう、力が抜けてて。あの缶はご自分で潰すんですか?


05 『GEORGIA(ジョージア)』

この他にも『asahi(アサヒ)』『cafe aulait(カフェ・オレ)』など発表済。缶に入った傷は「地球の手技」であり、そこが琴線に触れるのだとか。

深堀 - いや、拾った缶です。笑
僕が暮らしの中で、金魚が見えた空き缶を拾って来て描いてます。最近の道路ってゴミが少ないから、見付けてくるの意外と大変なんですよ。笑
史 - こういう作品って基本的に「見えた場所に描く」感じですか?
深堀 - そうですね。自分も「泳ぎたいなあ」と思う場所にはだいたい見えるので、そこに描いてます。

今回の個展では、深堀氏の代表作である『金魚酒(きんぎょしゅ)』の初期作品から現在までの変遷を見ることができた。(写真は手前から奥に行くほど最近の作品) そこには、一匹の完璧な金魚を創ることに心酔した深堀氏の技術は、あと数年で「本物の金魚」に至るのではないか…そんな禁忌すら想わせる迫力があった。

INTERVIEW @ ATERIER

『金魚亭』

2008年4月浅草で行われた浪曲公演に使われたハリボテ。深堀氏のアトリエである「金魚養画場」に行くと、天井を縄張りとした彼がかなりの上から目線で出迎えてくれる。アトリエのヌシなのかもしれない。

史 - 今回の個展ではオープニングレセプションの時に「キンギョスクイ」をやったそうですが、

"簡単にご説明しますと、これは私が手描きした絵手紙サイズの水彩ドローイングを、皆さまに一枚一枚手売りして、その収益から材料費などを差し引いた利益分の金額を復興支援のための寄付にするというものです。"

- 深堀隆介ブログ 『金色ノ鮒』 2010/03/31 より

史 - 企画の内容もさることながら、描かれたドローイングがすごく興味深いです。カタチはデタラメだけど、どれも金魚に見えるというか…逆に、「姿」に縛られていないぶん、描かれた子らがみんな自由に見えますね。
深堀 - 描いていてもすごく楽しいですよ。もともとボールペンとかで自由に描くのが好きなので…
史 - なんかこう、守破離で言うところの「離」に踏み込んだように見えますが。
深堀 - いやいや…まだだいぶ「守」ってるつもりですよ。笑

アトリエの中で唯一額装されていた、
標本のような浮遊感のある作品。

「次の作品のアイデアか何かですか!?」
「いや…ただ吊るしてるだけ…」

ボールペンで描かれたラフスケッチ。
この段階で、目がすでに生気を帯びている。

アトリエにはこうして、書きかけの作品が数多くディスプレイされている。

韓雪(からゆき)

アトリエを入ってすぐ左手の和金。荒いタッチだがどこか潔く感じるのは気のせいだろうか。 この子は、自分の意志でここに居るように見えた。

史 - この、アトリエに飾っている作品たちはどれも完成しているように見えるのですが…これは全部お気に入りですか?

深堀 - いや、完成していない子らばかりです。制作の過程で、ある時ふと筆が止まり、それ以上進まなくなってしまうことがあるんですね。

そうなったらこうして長いこと置いとくんですよ。何日も何ヶ月も何年も…そしたらまたある時ふと、筆が進み始めるんです。

史 - 作品って、どのタイミングで「完成」にするか難しいと思うんですが、深堀さんにとってのフィニッシュの目安とかありますか?

深堀 - 金魚たちが動き出した時、ですかね。ああ動いたな、生きたな、という時には筆を置きます。

"僕は金魚たちを描く時、描いた絵をじぃーとみて、ほんの少しピクっと動いて見えたら「生きた!」と感じます。

僕には、彼らが動いて見えるんです。それを一番大切にしています。「命」や「愛」というものの根源を、いつも考えて制作しています。

そこに僕の作るべき道があると思うからです。”

- 深堀隆介ブログ 『金色ノ鮒』 2009/12/03 より

もちろんだが、普通の金魚もアトリエには沢山居る。全員に名前があるのだろうか。

"10年前のある日、絶望的になっていた作家を、飼っていた金魚が救った。さほど可愛がらず、なんとなく飼っていた一匹の地味な金魚。だが、落ち込んでいる作家の眼には、その子は最高に美しく見えた。

「何故いままでその美しさに気がつかなかったのか。 何故いままでその狂気に気がつかなかったのか。 金魚は、善も悪も持っている。金魚には全てがある。だから美しいのだ」

作家にとってそれは、まさに決定的であった。"

- 深堀隆介オフィシャルサイトより

史 - 深堀さんが金魚を描き始めたのは、長年部屋で飼っていた金魚に「救われて」からだそうですが。

深堀 - 学生時代のある夏にね、店じまいをしていた屋台のおじちゃんが、もう要らないからって確か100匹くらいの金魚をくれたんですよ。で、貰ったはいいけどそんな大きな水槽をいきなり用意できないから、その辺にあった丸くて大きなワインの瓶に入れたんですね。そうしたら毎日どんどん死んでいくわけですよ…飼い方も分からないし。

ただ、どういうわけか全滅せずに、最後に一匹だけ残ったんです。その子が僕を「救って」くれた子でした。(※07)

チョビ

07 『チョビ』

深堀氏の金魚作品初期に大きな影響を与えた金魚。この子がいなければ、深堀隆介の現在は無かっただろう。その姿は枯れてなお美しく、深堀氏の芸術のルーツを想わせた。


"「金魚救い」は、皆のためにある。
いまこそ「金魚救い」を。"

- 深堀隆介ブログ 『金色ノ鮒』 2011/03/20 より

史 - それを「金魚救い」と呼んでいるそうですね。今回東北の復興支援のために行った「キンギョスクイ」と掛かっていると思いますが、やってみてどうですか。今後の作風に影響を与えるような発見等、ありましたか?

深堀 - キンギョスクイは、東北への寄付金を集めるという意味もありますが、やり始めたきっかけは、そこではなく、自分自身の制作に対する考えから来ています。

あの震災後1、2週間は、日本中がアートどころではなくなったでしょ。 あの時は、どんな名画でも紙切れ同然になったように思ったんです。僕も自分の作品では、何も出来ないという無力感を感じ、何も描けなくなりました。


でも、月日が経つにつれて不安な気持ちの人達を、絵や音楽が癒しだしました。だんだんと芸術が必要とされてきたんだと思いました。

そして、自分自身もこんな時こそ、もう一度原点に戻って金魚を描いてみようと思ったんです。

それで、キンギョスクイを描き始めました。

韓雪(からゆき)

『キンギョスクイ』

自由に泳ぎ回る金魚たち。謙遜する深堀氏をよそに、形状のルールから解き放たれた彼らは、「守」の水槽をとうに抜けだしているように見える。

史 - なるほど。しかし1,000円っていうのは本当に破格ですよね。深堀さんの作家生命を危険に晒すような値段だと思いましたが…

深堀 - 一度は紙切れになった僕の絵なんだから、一枚1000円にしました。復興支援にささげる絵ということと、学生さんにもアートを買って楽しんでほしいという気持ちもあったんです。

そして、いざキンギョスクイを描き始めてみると気を張らずに描くためか、めっちゃくちゃ楽しかったんですね。

史 - 先程も言いましたが、どの金魚も本当に自由に泳いでるように見えますよね。

深堀 - 楽しいから、いい金魚がどんどん生まれてくるわけですよ。すると今度は、その金魚たちを見たお客さん達もすごい楽しんでくれるんです。いい循環が生まれたんです。これが最大の発見かな。

だから結果的には、僕もすごく勉強になっているんです。今回のキンギョスクイは、復興支援が目的だったのに、僕の方がもう一度「金魚救い」されてしまった、という感じでしょうか。

このことは、今後の作品作りに大きく影響すると思います。

史 - なるほど…二度目の「金魚救い」を迎えた深堀さんの作品、考えただけで心が踊ります。




史 - 本日は長い時間、お疲れ様でした。
他に何か言い残したことはありますか?

深堀 - えーと最近、金魚の稚魚が
全部うちの息子(3歳)に見えます。笑

史 - 今日聞いた中で一番良いハナシです。笑
ありがとうございました。

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